森を抜けてヘアピン・カーヴを走り、さらに高度を増していきます。
午後3:00頃、三方を山に囲まれた何も無いような所に、不意にチナールの街並みが現れました。村の入口には左手に駐車場があり、右手にロープウェイの駅と郵便局もあります。私は郵便局の前が広くなっていたので、そこに車を停めました。初めて訪れる上に余り情報を持っていなかった私は、とりあえず観光案内所を探す事にしました。道路の反対側に村の案内板があったので、そこに載ってるだろうと思い車を降りました。
外に出ると冷たい冷気が清々しく感じました。チナールは標高1675mですからツェルマットよりも高い所に位置し、シオンの491mから比べると気温もかなり下がっていました。流石に山国スイスです。僅か1時間余りで1100m以上登ってきた事になります。村の奥の方には、雪をいただき、村を見下ろすようにそびえる岩山、ベッソ(3668m)が曇り空にもかかわらず良く見えます。「双子の山」を意味するこの山は、よく見ると頂上が二つに割れている双耳峰です。
村の案内板に観光案内所の場所が載っていました。それはこの案内板の横にある建物でした。なぁんだ…隣か…。車に両親を残し、私は案内所に入りました。
「こんにちは。」
カウンターに人はいませんでしたが、呼びかけると中から金髪の若い青年が出て来ました。
「安いホテルを探してるんです。」
「今はシーズン・オフですから、空いているホテルは少ないですよ。」
おまけに軍隊も滞在しているらしく、あるホテルは軍隊で一杯だそうです。それにしても、ホテルの紹介をしているのかいないのか、一応、数軒のホテルとそれらの場所を口頭で教えてはくれましたが…。私はホテル・リストを片手に案内所を出ました。
そこから歩いて1分とかからない、メイン・ストリートに並行して走るもう1本の道にあるひとつ星のホテルに入ってみました。古い木造の味のあるホテルで、地上階はレストランでした。まだ営業時間ではないのか、店内は暗く誰もいません。レトロな雰囲気で渋いカウンターにも人の影はありませんでした。
「Hello?!」
…返事がありません。私はもう一度、呼んでみました。すると中から中年の金褐色の髪の女性が出て来ました。
「Bonjour.」
お、フランス語だ。
「ボンジュール。今夜、泊まれますか?」
「???」
おや?英語が通じないぞ。
「あー…、ルーム、トゥナイト…。」
片言の英語しか話さない(ほとんど全然話さない)マダムとこんな風にしばらくやり取りし、部屋を見せてもらったりしましたが、狭いツインルーム(シャワー付)ひとつしか空いておらず、部屋に簡易ベッドを入れるというのですが、3人でとなるとかなり狭くなりますので、ちょっと考えると言ってホテルを出ました。「ちょっと考える」というのを伝えるのもかなり苦労しました。
一旦車に戻り、今度は母と一緒にそのホテルと観光案内所の間にある二つ星ホテル、Pointe
de Zinalに入ってみました。今度は英語が通じます。
「部屋を見て決めて。」
と、マダムにカギを二つ渡されました。3階(日本では4階)のツインルームとシングル、トイレ・シャワーなしですが、ひとり40.00SFRという安さです。部屋は狭くても清潔で、車もホテルの前に停められたのでここに即決しました。 |